オオカミの群れにご用心

先日、ネット界隈で有名なビジネスマンの方が
「退職代行ビジネス」について批判的なコメントをしたところ、
当事者含めた様々な方から厳しい攻撃を受けていた。
端的に言うと「最後に自分でお尻を拭けない人は、どうせ次でも同じ結果になるので、
そういう人を量産化するビジネスは世のためにならない」というも主張であった。
退職代行サービスの是非は置いておくとしても、
それぞれがあえて刺激的な言葉を選んで応戦しているところもあり、
結果的に退職代行自体の認知も上がった様に感じた。

ちょうど新聞にアテンションエコノミーの記事が載っていた。
関心経済、つまりいかにユーザーの興味関心を引くかがビジネスの中心に
置かれている状態を指す。SNSでの発信を中心に、ネットを活用した広告や
レコメンドなど、世の中は人の関心を奪うことが目的となっており、
それが結果的に人が思考する機会自体を奪う事につながり、
特定の利益や悪意ある誘導に簡単に操られてしまうようになる危険性が
あると指摘されていた。物事の真偽、本質などはさておき、
自分にとって心地よく刺激的な響きを持つほうが「正しい」という世界に
なってしまうよ、ということだ。

厄介なのは、元々人間が持つ弱さ(承認欲求や功名心、自己正当化など)へ
巧妙に働きかけるので、本人はその歪みに中々気づけず、
さらなる強い刺激を求め続け、最終的にはあらゆる原因を他者に
見出す攻撃的な存在になってしまいかねない
(専門用語で「狼化」する、と言うらしい)。

特に今の世の中は自国主義、弱肉強食の雰囲気が強まっていて、
内省的に振る舞うことが「弱さ」と捉えられそうなリスクがあり、
人の話に耳を傾けたり、いったん立ち止まる事に勇気がいる時代でもある。
言ったもん勝ち、やったもん勝ちという世の中では、
真っ当に思考することが損であるかのような認識も強いのではないだろうか。
冒頭の退職代行の話は、それぞれの主張があって当然だと思うが、
SNSという場所で拡散されると「推しとアンチ」の構図が強化されてしまい、
皆が自分の主張や立場を守る事を第一優先とした狼だらけの
攻撃的コミュニケーションの場になってしまう。
誰しもそんな状態を素晴らしい世の中だとは思わないだろう。

情報過多な社会に身を置く自分たちに、まずできる事といえば、
自分自身も目の前にいる人も無意識に狼化している可能性がある、
という事実を認識することだ。相互に攻撃しあう状況だと、
先にスキを見せたり、後手に回ることは勇気が要る行為だが、
どちらかが先に武装を解かなければ距離は一生縮まらない。
もちろん、聞き分けのない相手の対応に自分自身が狼化する危険性もある。
そんな殺伐とした空気感の中で、いったん立ち止まり、
自分の反射的思考に「ちょ、ちょっと待てよ!」とカッコよく
ツッコミを入れられる上司がいたら…そんな人間が多くいる職場になったら…、
なかなか魅力的な場所になると思えてこないだろうか。
その姿にまた一人、もう一人と賛同者が増えていく環境こそが
心理的安全性を体現するものだと思うし、
これからの時代のマネージャーに求められるリーダーシップとは、
まず先に自分自身にツッコミを入れられる事なのではないかとさえ思う。
そして、職歴書には格好よく「1on1に重きを置いた」と表現して欲しい。

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