データでは読み解けないもの

改めて、対面のコミュニケーションは良いものだと思った。
5月になりコロナの法的扱いが引き下げられた事で
お客様と対面でお会いしやすくなった事が一つのきっかけだ。
一番感じるのは、ちょっとした間の使い方で、
お互いの理解が一気に進む事があるということ。
瞬間の微妙な表情の変化、部屋の雰囲気、声のトーンなど、
デジタルだと受け取るのが難しい情報を感じ取りながら、
あえての「ため」を作ってお互いの思考を整理させたり、
逆に被せ気味に相槌を打つ事で会話の熱量を高めたり
相互にコミュニケーションを作り上げていく工程が楽しい。
そういう時は、あらゆるアンテナを駆使しているからか、
終わった後の疲労感もこの上ないが、それもまた心地良い。

コロナがひと段落し、今は自動生成AIの話でもちきりだ。
ただ、どちらかと言うと凄さや利便性というよりも
「自分の仕事がなくなるかも…」といった
ネガティブな文脈で語られる事が多いように感じる。
実際に、ある試算によると全職業の80%がAIによって
何らかの影響を受けるとされているそうで、
まさしく誰にとっても脅威を感じる存在と言えるだろう。

新聞でも、もし人間が一人でやったら1年かかるはずの
「ネット口コミの要約作業」をAIにやらせたら4日で完了、
なんていう記事を読んだばかりだ。
圧倒的スピードでこなせるのに大した費用もかからない様子を見ると、
人の仕事が無くなるって瞬間の事なんだな…と実感せずにはいられない。

と、他人事の様に話をしているが、実は人材紹介会社こそ、
その脅威に大きくさらされている仕事の一つである。
求人票や職務経歴書などの文章作成、ならびに過去のデータ分析からの
適職マッチングなんていう作業は要約と同じくらいAIの大好物だ。
そこそこの知識や経験が無になる、圧倒的なスピードと正確性。
今の所、人間に分があるのは創造的な分野だとされており、
まだ存在していないもの、データ以外の要素を手がかかりとするもの、
無秩序で関連性に乏しいけど実はつながっているもの、
そこから答えを導いていくということ以外は無敵というわけだ。

きっとそのうち「この『嫌』は実は『好き』の意味だ」くらいは
判断できるAIも出てくるのかもしれないが、
人間の持つ曖昧さやわかりづらさを舐めてはいけない。
「謙遜」やら「機嫌」やら「文化」やら「情熱」やら「運気」やら…
友人や家族ですら理解に苦しむ個人の世界というものがある。
日ごと時間ごとでも変わる意味不明な世界の読み取りは、
チャットボット君にもさすがに酷だろう。

転職に人が介入するという仕事の存在意義は、
パターン化やデータの蓄積とは全く関係なしに、一期一会の精神で
相手を読み解く努力を継続できるかどうかにかかっている。
仮に答えが分からなくても、例えば思ったような結果にならなくても、
冒頭のような対面コミュニケーションの持つ複雑さや疲労感を
「楽しい」「心地よい」「また会いたい」と自分が感じられ、
また、お客様からもそう思ってもらえているのであれば、
これからも必要とされ続けていくのだろうと思った。

コメント