運任せの人生

4月というのは、社会人にとっては部署異動や転勤があり、
学生にとっては新学年のスタートでクラス替えがあったりと、
多くの方が慣れない環境で慌ただしい日々を過ごすタイミングである。
今時の表現として、人事異動やクラス替え等の「運」の要素が強い出来事を指し、
「〇〇ガチャ」と言ったりもするそうだ。

ご存知の通り、硬貨を入れて(念もいれて)、回転レバーを回すと出てくる
あの「ガチャガチャ(カプセルトイ)」をなぞらえた表現だ。
『人生は“運に左右される”。』ことを意味しているこの、「ガチャ」というフレーズは、
数年前からネットで見かけるようになり、今では若者を中心に、
日常的な会話にも登場する言葉となった。
私の娘も、鏡を見ながら「親ガチャに外れたせいで、目が細い…」などと言っている。
小学生がどこでそんな言葉を覚えるのだろうと思いつつも、自分もガチャでは無いが、
親父のせいで背が低い・・・ような事を言っていた記憶があったりする。

最近では仕事の選択ですら「ガチャ」要素があると言われているようだ。
就職・転職時の配属、組織内での異動に不満を持つ若手社員の多くが、
「自分の置かれている状況は、自分の努力ではどうすることもできない」と考え、
容易にキャリアのリセットボタン(職場を変える)を押してしまう人が多い。
そのような方の多くは、自分の培ったキャリアに対しての熱量が低い。
「会社が自分に合った仕事をさせてくれない」「上司や同僚のせいで良い仕事ができない」と
全て他責にし、自らが行動(努力)しなくてもよい口実にしている様に見えてくる。

もちろん職場に運の要素がある事は誰も否定しないだろう。
しかしキャリアにおいては、「ガチャ」に振り回されるのではなく、
仮に正解が分からずとも、自分なりに中長期のキャリアを見据え、
貪欲に必要な情報を取りに行き、出来うる限りの積極的行動をとる事自体に価値がある。
仮に置かれている現状に不満があるにしても、その中で成果を出し、
小さくても良いので、成功体験を得ること。そして、いつか巡ってくるであろう
チャンスを確実に掴みとれるよう、土台作りとしての知識や能力を高めることに
熱量をもって集中して取り組んで行けば良いと思う。

一方で、管理職世代では「部下ガチャ」と言って嘆いている人もいるようだ。
「当たりだ、外れだ」と言う前に、マネジメントの本分は「育てる事」だと立ち返るべきだ。
いつの時代においても「最近の若い者は…」というお決まりセリフを耳にする様に、
常に若い力というのは、ベテランにとって不可思議で得体の知れないものなのだ。
その分、その粗削りで危なっかしいカプセルは、過保護にならず、
とは言え大けがはしない様に適切に上司がサポートしてあげれば、
とてつもなく大きな成長を遂げる可能性に満ちているはずだ。
出てきたカプセルの価値は、マネジメントのアプローチ次第で大きく変わる。

とにかく、いずれの立場においてもガチャ運で片づけてしまうのは簡単だ。
生きている中で登場する大小様々な壁に向き合わず、付き合わず、
「どうせ何も変わらない」「自分じゃない誰かのせい」とそこから逃げてしまえば、
その時感じるストレスからはすぐに解放されるので、癖になってしまうのもわかる。
しかし、それは一歩も前に進んでいないどころか、
時間と機会という希少なコインを無駄にすり減らす行為であると肝に銘ずるべきだ。
同じく流行りの言葉である、「コスパ」「タイパ」にとらわれ過ぎれば
必ず成功する道や絶対に失敗しない方法が分からない限り、前に進めなくなる。
そんな事なら、誰にも気づいてもらえない数ミリの「匍匐前進」の方が
本質に近づけるという意味で、よほど価値があるのではないか。

結局のところ、どんなガチャが出ようがそれを受け入れる強さがある人間に
人は魅力を感じるもの。そもそも、その人の手にかかれば「はずれ」が
「大当り」に見える事だって…。少なくとも私は、次にどんなカプセルが出てくるのか、
ワクワクしながらこれからも回し続けたいと思う。

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