迷える相談者の立場から

最近まで子供の塾選びに頭を悩ませていた。
とりあえず学校の勉強に遅れないでほしい程度の熱量だったが
どうせ通わせるなら子供にマッチした場所をという事で
近隣のいくつかの塾に説明を聞きに行った。

たいていの場合、体験入学やテストを受けてからの説明となる。
我が家の場合、強い目的意識がなかったので、
塾側からすると説明の勘所が絞りづらかっただろう。
実際、有名校への合格率や先生の実績をアピールされても
私「はあ、まあ、受験とかはまだ考えてないので…」
塾「とりあえず通わせてみたら本人のやる気が芽生えるかもしれませんよ」
塾「親が何か言うより塾に丸投げした方が良いですよ、うちの塾は声がけが上手です」
など、どこの塾も今一つしっくりこないやり取りになってしまい、
「うちの子に塾は必要ないかなー」と考え始めていた。

その中で、ひとつだけ対応が異なる場所があった。
少し特殊な塾で「〇〇校専門」という特化型の看板を掲げており、
なんだか敷居が高そうな雰囲気があった。
実際、対応してくれた先生も他所と異なりビジネスライクな感じの方で、
「場違いかな?」と感じながら説明が始まった。

「ウチの塾はお子さんによっては入塾をおすすめしません」から始まり、
「というのも、うちのやり方は少々特殊だからです」
「ちなみに、お子さんは時間にルーズなところがあるが、自分のリズムを持っている様でした」
「テストの解き方をみると問題形式に戸惑っており、ちゃんと勉強をしたことが無いのが明白です」
「また、人前で話す事がモチベーションになるタイプなので、個別指導の塾には向きません」
「うちの場合、対話型の授業中心で課題量は少なめ、マイペースな子にも向いている」
「勉強習慣を身に着けるための努力が必要になりますが、彼ならやれると思いますよ」
と次から次へと具体的なコメントを浴びせられた。

職業柄、初対面の方の営業トークにはある種の警戒心を持って接してしまうのだが、
「シビアな話とともに、突き放さずに解決策を示してくれる姿勢」に引っ張られ、
「もっと聞きたい」という気持ちに変わっていくのを実感した。
(不覚にも、「受験ありかも…」と考えてしまったくらいである)

子を持つ親の心理を読まれ、術中にはまっただけのことかもしれない。
しかし、この場面で大事なのは「迷っている人の羅針盤になれたか」という事だ。
ゴール設定のないあいまいな説明、一方的な「うちの塾の良さ」アピールでは
迷える相談者(お客さん)に「前に進むか、それとも現状維持か」の決断や
具体的行動を促すパワーはないし、アドバイスどころか選択肢すら奪う事になってしまう。
私の例で言えば、「塾が必要か否か」を検討する前に思考を止めかけていた。

しばしば、転職の場面でもこれと似たようなことが発生する。
まず、全てのご登録者様が明確な動機やキャリアの方向性を持っているわけではない。
そして、企業側としても面接で一方的なアピールをされても本当の良さはわからない、刺さらない。
その間に立つ我々にとっては、双方が「迷えるお客様」ということだ。
そこで行うアドバイスやアウトプットの内容によっては、
「転職する」「採用する」ということを意図せず潰すことだってあり得るのだが、
それをしてしまっている本人は「役に立っている」と思い込んでいるのが罪深い。
(もちろん、無条件に転職を進めるキャリアアドバイザーは論外である)

あくまでも「ご本人に真剣に検討をいただく」という機会と環境を作ること、
それが岐路に立ったお客様から相談を受ける立場としての最低限の責務なのだと思う。

無意識に悪気なく、お客様の可能性やアクションを奪うアプローチをしてはいないか?
久しぶりに「選ぶ側」としての顧客目線を考えた出来事だった(真剣に考えて今回は入塾を見送った)。

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