楽しむ余裕

イチローは現役引退会見のときから、草野球デビューへの思いを口にしていた。
この冬、日本でその念願を果たす。
その日に向けて、室内打撃練習場で300球を毎日投げ込みながら、球を真剣に追う。

イチローの華々しい実績の裏には、本人しかわからない苦しみがあった。
ある日、イチローはこんなことを言った。
「今のメジャーの年俸ってすごいけど、その金額でよくサインできるよなって思うよね」
具体的には、「高額年俸をもらうということはそれに見合った成績を残さなければいけない。
それを受け入れる自信がすごい」という意味だ。
イチロー本人も、20億円近くの年俸を受け取っていた時期があった。
他人にはわからない重圧と責任の中で、シーズン200安打を続けた。

「プロの世界でここまでやってくると、純粋に楽しい、子供みたいに楽しめるかといえば、
それは責任を伴うのでできなくなる。だからそういうものがなくなって、
もう一度純粋に楽しい野球がしたい。」と思ったのだろう。

草野球に回帰する理由は、野球を心から楽しめるから。
これはプロの世界で極限まで野球と真剣に向き合ったイチローだから言えるセリフだろう。
草野球を通じて、子供にプレーを見せたり、野球人口の拡大のための働きかけなど、
野球界への恩返しも考えているそうだ。

スポーツに限らず、ビジネスでも似たようなことが言えるのではないだろうか。
最近の調査で、お金のためではない副業をしている人の方が、
副業をしていない人よりも、満足度が高いという結果が出たそうだ。
この「お金のためではない」という部分がポイントで、
これができる人というのはメインの仕事でそれなりの実績だったり、
立場だったりを持っている人が圧倒的に多いそうだ。
副業が良いとか悪いとかいう話ではなく、まずは目の前の仕事に全力投球し成果を出す事。
その上で楽しさを感じられる場所を持つ人の方が、幸福感を得やすいという事だろう。

逆説的だが、楽しむ余裕というのは日々の業務に真剣に取り組むからこそ持てるという事。
充実したキャリアを歩めるかは、その一つ一つの積み重ねにかかっているという事を
偉大なる実践者であるイチローから改めて教わったような気がした。

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