日本代表の3大会ぶりの優勝に終わった第5回ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)。
優勝から1週間が経った今も、各種メディアで取り上げられており、多くの人々の記憶に残る
感動的な大会だったと思う。野球にそれほど興味を持っていない私でも日本戦は全試合、テレビ中継を観た。
様々な選手が活躍した大会だったが、決勝のアメリカ戦で“打って守る”をやってのけた
大谷選手の二刀流はやはり凄まじく、一躍、野球界の、いや、世界のヒーローとなった。
詳しい人も多いだろうが、野球界の二刀流は投手と野手の組み合わせに限ったことではなく、
現役時代の野村監督や古田監督など、監督としてチームを牽引しながら、
選手として登録していた人もいた。しかし、想像に難くない事だが
「監督と選手」の二刀流はまず、成功しない。
古田監督の場合、監督になった事で選手としての出場機会は大幅に減り、選手成績もダウン。
そのままチーム自体の成績も不振になってしまった。
どちらかに専念していたら…という声も多くあった様で、
突出したスキルを持っていたとしても、異なる要素を同居させる難しさがうかがえる。
ビジネスの世界での二刀流は、例えば「管理職」と「プレイヤー」の兼務。
いわゆる、「プレイングマネジャー」という存在だ。
実際、日本では約9割のマネージャー職の方が、現場職務をこなしつつ、
マネジメント業務にも携わっている。しかし、やっている事と出来ている事は大きく異なる。
実際に、その二つの顔を両立できている人はどのくらいいるのだろうか。
転職相談に来られる多くの現役管理職の方々のお話からしても、
業務量は1.5倍、なのに残業はつかなくなってモチベーションも下がり…と、
思い描いていた管理職とは程遠いものになっている事は想像に難くない。
「メンバーに仕事を任せられないので、仕方なく自分でやっている」という話もよく聞くが、
この状態ではメンバーの自主性が育たない。結局、一生マネジメントに集中できず、
いずれの立場においても中途半端な存在になってしまう(若手からもリスペクトされない)。
もちろん、2つの異なる役割を高次元で同時にこなす二刀流に憧れを持つことは悪くないが、
お互いが持つ能力を最大限に発揮できる環境を整えた方がうまく行く事も多い。
WBCの準決勝、負ければ後がない状況で栗山監督は不振の村上選手に全てを託したそうだ。
「思い切って行け!」
結果として、村上選手がプレッシャーに打ち勝ち、栗山監督の差配が賞賛された。
そして、極限の状態で自分を信じてもらえた村上選手は、
もしまた今回の様な状況に陥った時に自ら克服する勇気を獲得したと感じるし、
もし自分が指導をする立場になった時には『思い切って、行け!』と
誰かの背中を押してやれる存在になれるかもしれない。
リスクを負って信じる事、そしてその期待に応える不断の努力を日々続けている事。
私が考えるに、それこそ正しいプレイヤーとマネージメントの関係性であり、
そして、それを次の世代へ受け継いでいく事にも大きな価値があると考えている。
残念ながら、大谷選手の様な存在になれる人は ごくわずかである。
しかし、必ずしも二つの刀を自分だけで同時に振り上げる必要はなく、
誰かと一緒に携えたほうが守りも攻めもうまく行くし、長く活躍できることが多い。
自分なりの二刀流を実現するために、大谷選手の様に努力を惜しまず邁進したい。

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