「あなたはもう忘れたかしら……」の歌詞で有名な、神田川。
東京在住の方にはおなじみだと思うが、その神田川沿いの土手の上に、御茶ノ水という駅がある。
ふと、幼い日のことを思い出した。
朝早く、父と二人で郊外の自宅から出てきて、東京西部の奥多摩までハイキングに行ったことがあった。
そのときに、乗り換えたのがこの駅だった。その日も、あたりに霧が立ち込めていた。
今回、同じようなシチュエーションを経験したことで、ふと昔を思い出したのだろう。
最近他界した父は、物静かな人だった。
寡黙な昭和のお父さんというイメージの人だった。
今だから言えるが、私の幼いときは、非常に近よりがたく、昔は、父に怒られるのが恐くて仕方がなかった。
しかし、振り返ってみると、仕事で疲れていて、休みたいはずの土日に、何度も私を遠くに連れていってくれたこと自体、
家族に対する父の思いの現れだと思うようになった。
自分自身、一歳半の息子を持つ身になり、休みの日はどこに連れていこうかと、最近あれこれ考えるようになった。
そんな中、より一層父のことに思いをめぐらすようになった。
昔を振り返ると、父が厳格な人だったということもあり、父と共に過ごした時間が、
いつも弾けるように楽しかったというわけではない。
だが、一緒に過ごした日々を思い出すと、じんわりとあたたかいものが胸にこみ上げてきて、
私の生きる力になっている。
その嬉しさを、他の人に返したいという思いが、自分の原動力になっていると思う。
人は、自分のされたことを他人に返したがると聞いたことがある。
私の属するサービス業は、人様に喜んでいただくことで成り立っている仕事だ。
顧客満足という言葉がよく使われるが、自分自身がされて嬉しかったことを他の人に返したいという、
素朴な思いを大事にすればよいのではないかと思う。
今度墓参りに行ったら、墓前で、そんなことを父と語り合ってみたい。

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