「あなたの理想とするキャリアに向き合い、最適解を提案します」
そのような言葉を人材紹介会社ではよく耳にすると思う。
しかしこれは本当に「言うは易し行うは難し」であると感じる。
そう思う理由は3つほどある。
まず「今よりもっと良い会社に転職したい」という気持ちは
ほぼ全ての方が共通してお持ちであると思うが、
その「もっと良い」という中身は人それぞれであり、
それを完全に言語化してもらう事は非常に難しいものである。
目指すべきゴールや働き方も多様化している中、
エージェントの思い込みや古い価値観がバイアスになることも相まって
「ずばり、こうでしょう!」というアドバイスが
相手の最適解として突き刺さる、なんてことはまずありえない。
二つ目は、当たり前のことだが「相手がいる」という点だ。
転職とは、求職者と企業という二つの存在で成り立つわけだが、
必ずしも求職者が思う武器と採用サイドの欲しい部分が合致するわけではない。
パラメータ的にはその人が思う理想の会社の数値を満たしていても、
「その働き方だったらやりがいは感じない」という事はままあるし、
同じようなキャリアを歩んできた方でもその判断軸は大きく異なる。
誰もが羨むビッグオファーでも、その人にとっての価値につながらなければ
悲しいかなエージェントの提案は無意味であるという事だ。
最後に「その言葉は誰のための発言か?」という自問自答の部分である。
最も難しい点なのだが、人材紹介会社の本質がそこにあると思う。
紹介会社が目先の利益だけに振り切れば、入社してもらうために甘言を弄したり
始めと終わりで取る立場が変わったりしても、さして抵抗感はなくなる。
その代償として「あなたのキャリアが」というセリフは嘘っぱちのものとなり、
仕事に誇りを持たないコンサルタントから吐き出されるのは、
求職者、企業、人材業界三方にとってよろしくない言葉ばかりとなるはずだ。
きっとこれからも「あなたのキャリアに寄りそう」というメッセージは
人材業界で発し続けられるだろう。逆に言えば、それができない会社が増えるほど、
クローズアップされる言葉なのかもしれない。この仕事を志した人(私も含めて)は
どうしても「人に向き合います」と言いたくなりがちなのだが、
本来、人材紹介会社というのは表に出ない「黒子の立場」であるため、
私はここにいるよという自己主張は自己否定につながると認識すべきだと思う。
その境地に達するのはなかなか難しいことであるが、
まずは自分自身の仕事ぶりから目をそらずに向き合っていきたい。

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