背中の値打ち

「〇〇さんって、若いのにほんとに周囲をよく見られてますよね?」
「いやー、親が商売してたんで小さい頃からの癖ですかね」

面談をしていると、上記の様なやり取りが結構ある。
そういう方の持つ感覚の広さ・大きさに私は感心してしまうのだが、
やはり経営者が持つ「親の背中」の値打ちというのは、
一般家庭のそれより重いという事だろうか。

例えば、小売店とか直接お客様が来るような商売だと、
子供の頃から物を運ぶ手伝いをする、生活リズムがお店中心になるなど、
否応なしに「お客様が大事思考」の感覚に巻き込まれる。
また、来店商売でなくとも自営業ならではのお金・時間・人間に
対しての距離感やシビアさなどは、仕事の中身はわからなくても
子供への影響力は非常に強いと想定される。
もちろん、子供心に反発の感情が芽生える側面もあるだろうが、
「子供だけどお子様扱いはしない(できない)」という親の接し方によって、
精神的な成長速度も速くなり、結果的に自立を促すことになるのだろう。
(裕福がゆえに堕落するという負の影響も忘れてはいけないが)。
要は、強制的に「親の背中」を介して社会と接点を持つ事になるので、
一般の家庭よりデビュー戦が早いというのが大きなメリットなのだろう。

じゃあ、サラリーマンの家庭はこれからも不利なのかと言えば
そんなことはなく、最近は大きく変わってきているのではないかと思う。
例えば、テレワークの浸透で仕事を見せられる機会はすごく増えたし、
何より、現在のサラリーマンの就業環境の不安定さは働く意識という意味では
かなりプラスの効果があると思うからだ。

究極的に、自営とサラリーマンの違いを生み出すのは、
自分事か他人事かの「意識の違い」と表現できるだろう。
しかし、終身雇用はとっくに崩れ人員削減待ったなしの世の中で、
他人事を貫き通せるサラリーマンがどれだけいるだろうか。
今は数字や影響力の大小はあれど「会社ごと=自分ごと」の時代であり、
当事者意識の低い仕事(人)というのはどんどん淘汰されていく。
そうなると、自営と同様「失敗したら終わり」という覚悟が不可欠になるので、
家庭での自分の言動にもその思考が自然とにじみ出てくる可能性が高い。
「サラリーマンならではのシビアさ、意識の高さを存分に見せてやるからな!」
くらいの意識を持って仕事をすれば、十分に影響力のある背中を見せられるはずだ。

付け加えて、負けた時(失敗)の背中を見せるのも大事だと思う。
失敗してもへこたれない、精神的レジリエンスを身に着けてもらう意味でも、
必死に踏ん張る親の姿を見れば、そこから感じ取れることはたくさんあるはずだ。
その局面に自営か雇われかの線引きなど、もはや意味を成さないだろうし、
子供のみならず、部下や後輩に対しての影響力についても同じと言えるだろう。

「背中の値打ち」は職業や立場だけで決まるものではないと心得たい。

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