暗闇の象

外国に、こんな例え話があるそうだ。
暗闇の中で、ある人が象の鼻を触り、「象とはざらざらして柔らかいものだ」と言う。
また、ある人が象の牙を触り、「象とは硬くてすべすべしたものだ」と言う。
他のある人が象の別の部分を触り、違うことを言う。
どれも象の一部だが、象の全体を表したものではない――。

この話は、いろんな解釈の仕方があるが、私は、
人間にとって、物事を認識することがどれ程難しいか、
「解ったつもり」を戒める話だと捉えている。

弊社にお越しになる方と、フェイス・トゥー・フェイスでのご面談をする際、
「求められる働き方」のようなお話をする機会が多いが、実に様々な説明が可能である。
組織に貢献する。全体の中における自分の部署や自らの役割を踏まえて行動する。
まず義務を果たす。多角的な視点で物事を見る。経営の観点を持つ。
効率、効果、生産性を高める。独自の取り組みをする。他部署と密に連携する。
突き詰めれば、どれも同じモノに達するが、表面上は違う。

ご面談にお越しになった方に、職務経歴書の修正を通じて、ご自身の歩みを
振り返って頂くと、「こういったことを大事にして働いてきたのか」と、
感慨深いご様子で、ご自分を再確認なさる方が多い。その場面に立ち会う度に、
人にとって、働くという行為がいかに意義深いのかを感じると共に、
また新たな「求められる働き方」のエピソードに触れ、新たな発見をする。

先程の象の例え話は、「解ったつもり」を戒めると共に、
「伝えたつもり」を戒める話でもある。
A、B、Cと、いろんな観点で話をして、伝えた方は自己満足、
聞いた方は「解ったような、解らないような……」という例が、世の中には実に多い。
人生の重要な局面に携わるキャリアコンサルティングで、そういった事態に陥るのは
本当に怖いので、モノをお伝えする際、いつも細心の注意を払っているが、
お客様から、明るい表情で「目から鱗が落ちた」と言われると、
ささやかではあるが、何かしらお役に立てて良かったと思う。

冒頭の暗闇の例え話だと、「象とは」がぱっと解るのは、光が差し込んだときだ。
どうすればいいか迷っている、という方に、微力ではあるが、
進む方向を照らして、指針を指し示すお手伝いをする――。
「言うは易く行うは難し」だが、そんなコンサルティングをいつも目指している。

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